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松岡圭介展

 深井聡一郎は、「彫刻」と「置物」など曖昧でありながらも社会的通念としては確かに存在する区分に対して、それを成立させるに到る人の意識を問い直してきた。また藤原彩人は、具象形態である人体を手がけることで、現代の人間の心性に加えて、存在することや佇まいといった、ものごとがそこに「ある/いる」ことへの問いかけを行う。そして吉賀伸は、現実と人の記憶の間で揺れ動く形のない景色を題材に据えて、ものごとの自明性への疑義と存在が「存在」として認識されることの不確かさを提示する。
これら三人の作品は「彫刻」として評されるが、用いる制作手法は一般的な彫刻技法では馴染みのない、陶の本焼成である。その意味で「陶芸」側に立つと「オブジェ」と呼ぶこともできる。
そもそも陶芸でいうところの「オブジェ」は、美術用語のオブジェ本来の意味とは異なり、やきものでありながら器物でない「奇妙」な作品に対する呼称である。その呼称の起源をたどると、オブジェ焼と揶揄された戦後の陶による彫刻的形態に行き着く。もっとも造形史を繙くと、陶による「彫刻/置物」的造形は、土偶や埴輪など原始・古代においてすでに高度に存在し、現在に至るまで歴史を通じて作り続けられてきた。しかしオブジェ焼が問題となったのは、そこに同時代の「美術」様式からの借用とそれを通じて器物からの脱却を図るという近代の美術制度が根底にあったためである。三人の仕事は、一見するとオブジェ焼の延長上に位置するように思われる。しかしその制作態度は、かつての前衛陶芸のように器物制作から脱却するために彫刻的形態のオブジェへと足を踏み出したものではなく、また多くの現代美術家のように様々な表現媒体の一つとして陶を用いるということでもない。この三人にとって陶で彫刻を作ることは、世界の成り立ちを認識していくための出発点なのである。
そもそも作品とは、制作に関わる行為や作業行程の総体である。彫刻的形態を獲得するだけならば、木、石、ブロンズ、鉄、FRP、土など様々な素材でも可能である。しかし、表面的な形態の類似性に対して、素材とそれを扱う手順が異なれば、当然ながら再現できないことがでてくる。このような他では再現できないものこそが作品固有の技術であり、その意味で固有の技術過程を通じてしか把握できない世界観は存在する。
例えば、陶の作品には、幾重もの時間が内在している。というのも鉱物の一種である粘土は、生成されるまでにすでに一千万年という時間を背負い、焼成によってその時間性が人為的に操作され、変容される。さらに陶になることで、物質としての永続性を獲得する。加えて、粘土を積むという行為における物理的作業においても時間が痕跡として残される。こうした「時間」が作者のイメージや作品主題との相関関係も生み出すことになる。ここで例として挙げた時間性は、陶を成立させる一要件でしかないが、物質としての重さ、可塑性、内部空間、釉、自然性などもまた、制作意志や技術それ自体を導く手がかりとなることは、三人の仕事からも窺える。そして一般的な陶による彫刻(テラコッタ)と異なり、三人のように本焼成を前提とするのであれば、これら陶制作上の要件は、制約となる場合も含めて作家の制作行為を強く規定することになる。また、本焼成は時間の人為的操作というだけでなく、作者と素材との間に生じる強固な身体的結合を解体させるための場でもある。
こうした陶にまつわる総体を自己に内在化させつつ、イメージを作品固有の技術を通じて構造化していく過程に、作者が世界を認識するための手がかりが潜んでいる。「彫刻」を、例えば彫ることと刻むことという行為や技術において理解してみるように、モチーフや概念、ジャンル意識などに回収されることから距離を取ることで、はじめて陶で彫刻を作る三人の仕事は見えてくるのであろう。

 2016年4月1日

大長 智広
愛知県陶磁美術館学芸員

深井聡一郎 《 動物考 - 猿 - 》 2016 陶 75×45×16.5 cm
藤原彩人 《 胸像 -unveil- 》 2016 施釉陶 62×23×17 cm
吉賀伸 《 曙光の水田 3 》 2016年 陶 15×85×84 cm
略歴

深井 聡一郎 Fukai Soichiro
    1973
  • 東京都に生まれる
    1997
  • 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業
    1999
  • 武蔵野美術大学修士課程造形研究科修了
    2000
  • 第8回日本現代陶彫展大賞受賞
    2002-03
  • 文化庁新進芸術家海外留学制度によりイギリスに滞在
    2008-11
  • 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科非常勤講師
    2011-13
  • 東北芸術工科大学芸術学部美術科工芸コース講師
現在、東北芸術工科大学美術科工芸コース准教授


藤原 彩人 Fujiwara Ayato
    1975
  • 京都府生まれ、栃木県出身
    2001
  • 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
    2003
  • 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
    2007-08
  • 文化庁新進芸術家海外留学制度によりイギリスに滞在
    2009-15
  • 東京藝術大学美術学部彫刻科非常勤講師
現在、東京造形大学彫刻専攻領域/東北芸術工科大学芸術学部美術科彫刻コース/
和光大学芸術学科等非常勤講師


吉賀 伸 Yoshika Shin
    1976
  • 山口県に生まれる
    1999
  • 筑波大学芸術専門学群美術専攻彫塑コース卒業
    2001
  • 筑波大学大学院芸術研究科彫塑分野修了
    2003
  • 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
    2007
  • 平成19年度五島記念文化賞美術新人賞受賞
    五島記念文化財団の助成によりヨーロッパに滞在(2008年まで)
    2008-09
  • 東京藝術大学美術学部彫刻科非常勤講師
    2009-16
  • 東北芸術工科大学芸術学部美術科彫刻コース講師
現在、東北芸術工科大学芸術学部美術科彫刻コース准教授